電気事業連合会は、北海道電力から沖縄電力まで全国の電力10社が加わる電力会社の業界団体だ。1952年に発足し、事務局は東京・大手町の経団連会館の中にある。
「電力会社間の緊密な対話と交流をはじめ、新しい時代の電気事業をつくり出していくための創造的な意見交換の場として貢献してきました」(電事連HP)。
歴代17人の会長のうち、8人は東電の社長・会長が勤めてきた。東日本大震災の後、2011年4月までは清水正孝・東電社長(当時)が会長を務めていた。現在は八木誠・関西電力社長に代わっている。
電事連には各社から担当者が集まり、電力業界として意見をまとめて政府との交渉窓口になってきた。電事連事務局には、原子力部、立地環境部、電力技術部など10部ある。
事務局と会議の組織
電事連のホームページから
原子力部が担当する「原子力開発対策委員会総合部会」には、各電力会社の常務クラスが月1回集まり、原発の技術や施設、燃料の問題について話し合っている。1998年7月に第298回が開かれているので、単純計算すると1970年代初めから続いているようだ。
国会事故調が明らかにした総合部会議事録によると、1997年ごろから津波の問題がしばしば取り上げられている。電事連が津波対策を骨抜きにしてきた経緯を読み取ることができる。
●他省庁の動きに危機感
電力業界は、通産省以外の省庁によって津波の予測方法が更新される動きを警戒していた。古い原発が用いている方法より、更新された予測方法による津波予測が大きくなれば、すぐに上回るからだ。それによって対策が強いられることを恐れていたのだろう。電事連の総合部会議事録(1997年6月)は、警戒心を露にしている。
この報告書(7省庁手引き)では原子力の安全審査における津波以上の想定し得る最大規模の地震津波も加えることになっており、さらに津波の数値解析は不確定な部分が多いと指摘しており、これらの考えを原子力に適用すると多くの原子力発電所で津波高さが敷地高さ更には屋外ポンプ高さを超えるとの報告があった。[1]
「7省庁手引き」とは、1997年にまとめられた「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書」「地域防災計画における津波対策の手引き」(農林水産省、運輸省、建設省など策定)を指す[2]。1993年の北海道南西沖地震津波で奥尻島で津波による大きな被害があったことをきっかけに中央省庁で津波対策を再検討してまとめたものだ。
1997年6月の電事連総合部会会議録には、電事連内部の作業チームが作成したと見られる詳細な報告書「7省庁による太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査について」が添付されており、ここでは原発が津波想定でかかえていた具体的な問題点が明らかにされている。報告書を読み解いてみる。
2.問題点
(1)想定しうる最大規模の地震津波も検討対象
〇現在、原子力の安全審査における津波は、①既往最大津波、②活断層により発生することが想定される地震津波を検討対象にしているが、この指針ではさらに③想定し得る最大規模の地震津波も加えている。
〇報告書では③の具体例として、プレート境界において地震地体構造上考えられる最大規模の地震津波も加えている。
〇この考えを原子力発電所に適用すると、一部原子力発電所において、津波高さが敷地高さを超えることになる。
この記述からわかる重要な点は、このころまでに作られた原発のほとんどは、「想定し得る最大規模の地震津波」を考えずに設計されていたということだ。前述のように福島第一の場合も、60キロ離れた小浜港で1960年に観察されたチリ津波の記録を、最大の想定として設計している。津波を想定する科学・技術が進んで、「想定し得る最大規模の地震津波」を計算することが可能になってきて、それへ対処する必要があることにこの時点で気づいていたのだ。福島第一の場合は、③の具体例として挙げられている「プレート境界において地震地体構造上考えられる最大規模の地震津波」が、2002年に地震本部が警告した高さ15.7mの津波だった。
[1] [東京電力福島原子力発電所事故調査委員会]
国会事故調 参考資料 P.43
[2] [農林水産省構造改善局、農林水産省水産庁、運輸省港湾局、建設省河川局, 1997]
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