2015年9月 4日 (金)

IAEAの福島事故報告書

失敗学会会員・吉岡律夫さんから、IAEA報告書について報告いただきました。


以下、ご紹介します。


事故に関するIAEAの報告書が公開されたので、津波の箇所だけざっと
読みました(下記の第2分冊)。
 http://www-pub.iaea.org/books/IAEABooks/10962/The-Fukushima-Daiichi-Accident

1)福島第一原発の建設時の津波予測は、過去に起きた津波をベースとする、
  という思想に基づき、1960年のチリ地震(M9.5)の約3mであった。

2)その後、見直されたが、2002年に5.7m、2009年に6.1mになっただけ。

3)その後、東電は2008-2009年に津波予測の試計算を実施し、文科省・推本の
  見解を基に、サイト南側で15.7mと予測。

4)更に、貞観津波に関する佐竹論文を基に、サイト南側で10mと予測。津波の
  遡上を入れれば、これより上がるはずであった。

5)過去に起きた地震・津波のみをベースにするのではなく、過去最大の地震が
  チリ地震(1960年、M9.5)と、アラスカ地震(1964年、M9.2)とがあった
  のだから、この程度の巨大地震を想定すべきであった。

6)過去が不確かな以上、安全側の立場に立って、上記3,4,5のいずれかが
  なされれば、2011年の津波高さは予測できたはずである。

7)規制当局も強く指導すべきであった。

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「M9も予測できた(すべきであった)」という見解は、中々のものですね。

これを除けば、失敗学会研究会が纏めた下記論文以上の記載はありませんが、
日本の原資料まで戻って、良く調査されています。
 http://www.shippai.org/images/html/news848/article1.pdf

「東電が15mの津波が来る可能性を認識しており、その対策をしなかった」
と、日本を含め世界40カ国の専門家が認定したことになります。

その背景としては「不確かだから対策しない」という具体的危険説と、
「不確かなら安全側に立って対策すべき」という危惧感説のいずれを取る
べきかということで、IAEAの結論は後者を採用していると言う事です。

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本報告書に関して、津波を取り上げたのは、9/1の東京新聞だけのようです。

「報告書では、東電が原発事故の数年前、福島県沖でM8.3の地震が起きれば、
第一原発を襲う津波の高さが最大約15mに及ぶと試算していたが、対策を
怠ったと批判。原子力安全保安院も迅速な対応を求めなかったと指摘した。」

2015-9-4 失敗学会会員・吉岡律夫

2014年1月19日 (日)

長期評価部会海溝型分科会論点メモ

福島第一に15.7mの津波をもたらす津波地震を予測していた地震本部の長期評価(2002)をとりまとめた地震本部地震調査委員会長期評価部会海溝型分科会の論点メモ

東京地検は、この津波地震の予測について「専門家の間で意見が一致していたとは認められない」と不起訴理由で述べているが、地震本部の議論からはそこまで意見がわかれていたとは思えない。地検の判断の根拠は不明だ。

第7回 2001年10月29日
http://yahoo.jp/box/kgl8kh

第8回 2001年12月7日

http://yahoo.jp/box/EKedu8

第9回 2002年1月11日
http://yahoo.jp/box/yNlbll

第10回 2002年2月6日
第11回 2002年3月8日
http://yahoo.jp/box/5DlR2S

第12回 2002年5月14日

2014年1月16日 (木)

東電が地震本部に書き換えさせた長期評価

東電が書き換えさせた地震本部長期評価

地震本部は、311の前に日本海溝の長期評価改訂を進めていた。
権威筋に弱い地震本部事務局は、東電の圧力を受けて、長期評価を委員の了解も得ずに書き換えていた。

事務局が、東電、日本原電、東北電力と秘密の会合を開いたのは、東北地方太平洋沖地震の8日前のことだ。ここで東電から言われて、長期評価を書き換えた。
三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価(第二版)
書き換え前
http://yahoo.jp/box/qov9Nr

書き換え後
http://yahoo.jp/box/IdVcjR 

注目すべきは7ページ目の一番下の部分。
直前版にはない文言が5行書き加えられている。
「貞観地震については津波堆積物調査等から断層モデルが推定されたが、今後新しい知見が得られれば、断層モデルが改良されることが期待される。また、貞観地震の地震動についてと、貞観地震が固有地震として繰り返し発生しているかについては、これらを判断するのに適切なデータが十分でないため、さらなる調査研究が必要である」
政府の公式文書である長期評価に、こういう不確実性を強める文言を加えておくことは、貞観地震が再来したときに対策を取っていなかった場合、刑事責任を逃れるには有効だ。実際、検察が東電を不起訴にした理由も、「2002年に津波地震を予測した長期評価はまだ不確実だったから」
東電は貞観地震についても責任逃れのために、布石を打っていたのだろう。

地震本部事務局の地震調査管理官に、「特定の民間会社に、長期評価を公表前に見せたことは問題があるのではないか。経緯をちゃんと調べて、関係者は処分したのか」と聞いた。
すると、「東電は指定公共機関なので、公表前に長期評価を見せることは問題ない」
とおっしゃる。
「じゃあ、今後も続けるのか」と聞いたら、もごもご。
「指定公共機関は電力会社だけでなく、携帯電話会社やNHK、JR、宅急便の会社などいっぱいある。地震本部が見せたのは電力会社だけだろう。おまけに書き換えまでして。どうして電力だけなんだ」と聞いたら、黙ってしまった。
文科省担当の記者クラブはちゃんと追及してください。

2013年9月20日 (金)

石井教授の計算間違い

福島市の放射能対策アドバイザー、東北大の石井慶造教授は低線量被ばくに「しきい値」が存在すると言う。根拠を尋ねたら、高校生にもわかる、ただの計算間違いだった。本人はいまだにお認めにならないが、市のアドバイザーとして適任とは考えられない。 http://p.tl/TC_t

石井教授は、「東日本大震災を分析する1」(東北大学災害科学国際研究所編、2013 P.237)で、こう述べている。
「ICRPの仮説(しきい値なし)に基づいて計算すると、日本においては年間57万人のがん患者が自然放射線の被曝により発生することになる」
「一方、毎年67万人のがん患者が見つけられ、これらは主に喫煙、病原菌、飲酒、塩分摂取、肥満等が原因であるのに、主原因は自然放射線となり矛盾する。従って、低線量被曝においては100mSv年以下のどこかにしきい値が存在していることになる」

自然放射線で年57万人って多いなあ、どういう計算なんだろうと思って尋ねたら、東北大広報を通して返答があった。

以下、石井教授からの回答

2シーベルトあびるとがんになる確率が10分の1となると仮定されているので、平均年2.1ミリシーベルトでは、これの1000分の1となりますので、毎年、がんになる確率は1万の1となります。被ばく線量は毎年、加算され、癌になるリスクもそれに伴って加算されていくとICRPは仮定しておりますので、従って、80歳の人は、80年×10000分の1の確率でがんになることになります。仮に、日本人の人口約1億3000万人の年齢分布が1歳から80歳まで同じ分布とすると各年代当たり162万人となるので、日本人全体で毎年がんになる予測人数は

162万人×1歳×1/10000+162万人×2歳×1/10000+--
-+162万人×80歳×1/10000=
162万人×(1+2+-----+80)×1/10000=
162万人×3240×1/10000=52万人

となります。本書の57万人は、実際の日本人の人口の分布から求めたものです。
という返答だった。

これは、生涯のリスクの数値を、年あたりのリスクとして計算に使っている単純な間違い(別の専門家二人にも確かめた)。ということを、石井教授になんども伝えたが認めない。憶測だが、シロウトに指摘されたのがいやだったんだろう。

そもそも石井教授は、こんな簡単な計算で閾値なし仮説が否定できるなら、とっくに誰かがやってるだろう、とは想像しなかったんだろうか。

福島市に、「LNTをただの計算間違いで否定しているような人を放射能対策アドバイザーにするのは問題があるのではないか」と聞いたら、「石井先生は、東北大学大学院工学研究科量子エネルギー工学専攻生活環境早期復旧技術研究センター長ですから、適任です」という答えだった。

肩書きが長ければ立派と言うわけでもあるまい。論文を探してみると石井教授は放射線利用の方が専門で、リスクについて詳しいわけでもなさそうだ。大学の先生がトンデモを信じておられるのは自由なのでかまわないが、福島市のアドバイザーとして行政にそれが反映されるのは、市民にとってたまったものではない。

2013年8月11日 (日)

「東電不起訴」の非科学

「東電不起訴」の非科学
検察が東電原発事故で東電幹部らの不起訴の方針を固めたと朝日新聞8月8日朝刊が報じている。検察の言い分は「大規模な津波は、発生以前に専門家の間で予測されていたとは言えない」。不起訴は妥当なのか、検察の言い分を3つの視点から検証する。
(1)検察は「東電は2008年、福島第一での津波の高さを最大で15.7mと試算している。しかし捜査の結果、試算の根拠となった研究も、当時は専門家の間で賛否が分かれていたという」。記事が書いていない重要な点がある。確かに賛否は分かれていたけど「津波は発生する」と考えていた専門家の方が多かったということだ。
 地震調査研究推進本部は2002年に、福島沖を含む日本海溝で大きな津波地震が発生する可能性が30年以内に20%と予測していた。この予測結果を数値計算したものが15.7mだ。地震本部公式発表だからこれだけでも十分重いのだが、確かにすべての地震学者が賛同していたわけではない。原発の津波基準を作る土木学会津波評価部会が、「地震本部が予測するような大きな津波地震が起きる可能性はあるか」2004年と2008年に、津波や地震の専門家にアンケートしている。その結果、「津波地震は(福島沖を含む)どこでも起きる」とする専門家の方が、「福島沖はおきない」とする人より多かった。
 というわけで、15.7m予測は、検察の言うように「真っ黒」な予見結果ではなかったが、かなり濃いグレーではあった。検察は、長期予測がどこまで確実になったら「予見できていた」というのだろう。基準はあるのか。それは検察だけが密室で決めていいのだろうか。
(地震で100パーセント確実な予測なんてあろうはずがないけど)
(2)「予見の程度に見合う対策」を取っていたか。確かに津波地震の予測は100%確実ではなかった。起きないと思っている専門家はいた。でもかなり濃い灰色の予測は2002年に出されていた。その濃さに応じた対策はとっていたのか。真っ黒黒の予見であれば、当然防潮堤を作り、高い津波が来ても100%大丈夫なように備える義務がある。予見の精度が灰色でも、その程度に見合う対策は可能だったはずだ。結論から言えば、東電は、津波対策は運転開始以来40年近く、ほとんど進化させていなかった(20センチ分かさ上げしただけ)。これは責任が問われてしかるべきだろう。科学の進展でどんどん灰色度は増していたのだから。プレートテクトニクスも成立していない時代の備えから、ほとんど強化していないなんて論外だ。
 数百億円かかる防潮堤を作らなくても、費用対効果のすぐれた対策はあった。可搬型のバッテリー(数百万円だ)を備えておくだけで、直流電源は維持できた。それだけで事故拡大はずいぶん防げた。東電は地震発生後、必死で車のバッテリーをかき集めたが、それを事前に用意しておくのだ。非常用電源、電源盤を津波予測水位の上に設置しておけば(数億円)、福島第二や女川と同じように冷温停止にこぎつけることができた。
(3)そもそも安全余裕を切り下げていた責任はないのか。柏崎刈羽原発は予測していたより3倍以上の揺れに襲われたが炉心損傷までは至らなかった。揺れ予測の不確実性を見込んで、プラントは余裕を持って作られていたからだ。
 一方、津波の方はこの「安全余裕」がまったくなかった。津波高さが予測を数センチ超えただけで、冷却のために重要なポンプが機能しなくなることが2000年には判明していた。専門家は津波予測に2倍程度の誤差はあるとしていた。ところが余裕を設けると運転できなくなる既存原発があったため、電事連が安全余裕を設定することを渋り、土木学会を利用して基準から安全余裕を取り除いてしまった。
 1997年から2002年にかけて電事連内部で進められた「津波の安全余裕切捨て」は、プラントの安全設計上大きな意味を持つ。当然、今回の事故でも主役級の責任がある。ところが検察は電事連から資料を押収したという話はない。十分な捜査がなされたのだろうか。

2013年6月29日 (土)

ムラの専門家たち

1)原発のリスク評価やリスク管理を捻じ曲げた、もしくはそれにお墨付きをあたえてきたのは、原子力ムラに関わる科学者や専門家たちだ。福島第一の津波リスクでは土木学会が主犯だ。新潟知事が危惧するように、そのような「ムラの組織文化」の検証・総括はなされていない。
2)ムラの専門家会合の特徴は非公開、非透明な「密室の合議」(藤垣裕子、『専門知と公共性』)だ。意思決定にかかわるメンバーの選択、議事からの報告書作成、報告書を実際の意思決定や施策にどう使うか、それぞれのプロセスは明文化、明確化されないまま「空気」が支配する。
3)原発の津波評価をした土木学会の部会を具体的に見てみよう。メンバーは半数以上が電力社員。電事連の内部作業チームがそのまま学会の名を騙っている。議事録は事故のあとに初めて公開された。津波評価研究のための費用や基準作りにかかる費用(約2億円)はすべて電力会社持ち。
4)土木学会の定めた手法の2倍以上の津波が福島第一を襲った。土木学会は「民間指針等とは性格を異にしており,事業者に対する使用を義務付けているものではありません」。一方、東電は「国内の標準的な津波評価方法として定着し、規制当局へ提出する評価にも使用されている」。責任の押し付け合い。
5)土木学会手法を、施策や規制でどのように使っていくか明確にしていなかった。だから責任も明確にできないという、実にうまい、日本的な仕組みになっていた。とはいえ先に述べたように、土木学会とはいっても内実は電力業界だったのだが。
6)土木学会手法の最大の問題は、安全率を考慮しなかったことだ。だから予測した水位のわずか数センチ上に、水をかぶると機能しなくなる非常用ポンプのモーターが設置されていた。予測の精度は「倍半分」と認識していたにもかかわらず、設備側に安全率を見込まないのは専門家としてどうなんだ。
7)当時、保安院の審議官は東電に「よく枕を高くして寝られるね」といやみをいっていたほどだ。土木学会の審議メンバー今村文彦・東北大教授は「安全率は危機管理上重要で1以上が必要との意識はあった」と政府事故調に述べている。しかし主査が研究室のボスだったから、事故前には言えなかったのか。
8)数値予測の精度が倍半分であることは電力業界も承知していた。安全率2倍として規制されたら既存原発がどういう影響を受けるか、土木学会の審議の前にあらかじめシミュレーションしてあった。2倍になると運転できないサイトが続々判明。特に福島第一と島根は1.2倍でもアウト。
9)だから安全率1倍は、工学的判断ではなく、経営的にすでに決まっていたことだった。それを土木学会の名をつけて「オーソライズ」した。「土木学会でオーソライズ」という表現は、電事連の議事録にも登場する。安全率切り下げのために、土木学会ブランドを2億で買った。安いものだ。
10)という具合に、原子力ムラは「密室の合議」を責任逃れの場として上手に使ってきた。シビアアクシデント対策の不備、電源喪失対策の不備でも、同様の構図がある。それは改善されたのか?。防潮堤さえ高くすれば再稼動しても大丈夫なのか。
11)だいたい、原子力学会が福島事故の検証を「非公開」で進めている時点で、彼らの生態に大きな変化がないことはすぐわかる

講義スライドの出典

近藤駿介・原子力委員会委員長の「最悪シナリオ」
放射線量等分布マップ
産総研の岡村行信活断層・地震研究センター長が貞観の津波を警告した会合
総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会
地震・津波、地質・地盤合同WG(第32回)議事録
http://www.nsr.go.jp/archive/nisa/shingikai/107/3/032/gijiroku32.pdf


福島第一・第二原子力発電所 津波の検討について 平成6年3月 東京電力株式会社
「h6.pdf」をダウンロード
土木学会原子力土木委員会平成12年度第6回(2000年11月3日)議事録
http://committees.jsce.or.jp/ceofnp/system/files/tnm_12_6.pdf

2013年5月30日 (木)

電事連の津波想定値切り その3

20002月の総合部会議事録に、当時最新の手法で津波想定を計算した結果が報告されている[i]

 

津波想定に誤差が生じることを考慮して、想定の1.2倍、1.5倍、2倍の水位で非常用機器が影響を受けるかどうか分析している。福島第一は想定の1.2倍(O.P.+5.9m~6.2m)で海水ポンプモーターが止まり、冷却機能に影響が出ることがわかった。

 全国に当時あった原発57基のうち、1.2倍の高さの津波で影響が出てくるのは福島第一のほかには島根原発(中国電力)だけだった。津波に対して全国で最も余裕の無い原発であることが、明らかにされたわけだ。この結果は、通産省にも報告されていたと思われる。

 女川(東北電力)、福島第二、東海第二の各原発は、最新の手法で津波を想定し、さらにそれを1.2倍した水位でも影響はないと判断された。今回の大震災で、福島第一だけに大きな被害があった背景には、この「津波に対する余裕の無さ」がある。

[i]

[東京電力福島原子力発電所事故調査委員会]

国会事故調 参考資料 P.41

 

2013年5月29日 (水)

電事連の津波想定値切り その2

 19976月の電事連総合部会会議に提出された報告書「7省庁による太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査について」は、当時の原発における津波対策についてもう一つのポイントを指摘していた。

             

 (2)津波数値解析計算の不確定さの指摘

〇この指針では、津波数値解析は技術的に開発途上にあり、精度と再現性に関して不確定な部分が多く、津波数値解析の計算結果は相対的な評価の基礎となり得ても、絶対的な判断を下すにはまだ問題が残されていると指摘している。

〇この報告書で行っている津波予測は、原子力の津波予測と異なり津波数値解析の誤差を大きく取っている。

 

 ここで述べているのは、津波計算にはまだ誤差が大きい、ということだ。「7省庁津波」を策定した委員や通産省資源エネルギー庁で原発の安全審査を担当する大学教授らが「津波数値解析の精度は倍半分」と発言していることも、電事連議事録に残されている。要するに、6mの津波と計算結果が出ても、実際の津波は12mかもしれず、3mかもしれない。津波の数値計算の精度はその程度ものだということだ。

 このことは、はからずも東日本大震災で実証されてしまった。福島第一を襲った津波は約13mと推定されている[]が、数値解析ではこれほど高くならないのだ。東電は大震災後、GPSによる海底の動きなど、これまでにないほど精密なデータを入力して津波高さを計算したが、福島第一になぜ13mもの津波が来たかはいまだ説明できていない[]。原発構内に到達した津波の様子を広域再現モデルではシミュレーションできず、根拠もないまますべり量を1.25倍しているのだ。

 

 通産省は、当時の原発が想定される最大津波を考慮していないこと、津波数値解析の精度が悪いことを公にせず、秘密裏に対策を進めようとしていたことも、議事録に残されている。

〇MITI(通産省)は当面、③の想定し得る最大規模の地震津波を東通をはじめとする申請書には記載しない方向であるが、顧問会においてはそれぞれの検討結果を報告することを考えている。

〇MITIは、(中略)仮に今の数値解析の2倍で津波高さを評価した場合、その津波により原子力発電所がどうなるか、さらにその対策として何が考えられるかを提示するよう電力に要請している。

             

 当時は、新設原発の申請が相次いでいた時期だ。「通産省は、想定し得る最大規模の地震津波を申請書に記載しない」というのは、新しい原発で最大想定津波の問題が露見すれば、既設炉に波及するのを避けたと考えられる。新設炉で、最新の方法で「最大規模の地震津波」を想定しているのがわかれば、すぐに「じゃあ、なぜ古い炉でそれを想定していないの」ということになるからだ。

 原発事故の14年前、1997年の時点で、電事連は、①古い原発が最大規模の津波を想定していないこと②数値予測より2倍の津波が来る可能性があることを知っていたことがわかる。このときから古い原発の津波対策を進めていれば、東日本大震災までには十分対応が終わっていただろう。

 ところが電事連が決定したのは、噴飯ものの内容だった。

〇ばらつき(数値予測の誤差)を考慮しなくてよいとのロジックを組み立て、MITI顧問の理解を得るよう努力する。

 数値予測にばらつきはつきものだった。それを見込んで余裕を持って津波対策をする必要があった。ところが電事連は「ばらつきを考慮しなくてよいとのロジックを組み立てる」という解決方法を思いついた。机上の空論なら費用もいらぬ。その具体化は、土木学会の名を借りて行われることになる。

[]



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[東京電力株式会社, 2012]

P.9

 

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[東京電力株式会社, 2012]

添付3-10

2013年5月28日 (火)

電事連の津波想定値切り1

電気事業連合会は、北海道電力から沖縄電力まで全国の電力10社が加わる電力会社の業界団体だ。1952年に発足し、事務局は東京・大手町の経団連会館の中にある。

「電力会社間の緊密な対話と交流をはじめ、新しい時代の電気事業をつくり出していくための創造的な意見交換の場として貢献してきました」(電事連HP)。

 歴代17人の会長のうち、8人は東電の社長・会長が勤めてきた。東日本大震災の後、20114月までは清水正孝・東電社長(当時)が会長を務めていた。現在は八木誠・関西電力社長に代わっている。

 電事連には各社から担当者が集まり、電力業界として意見をまとめて政府との交渉窓口になってきた。電事連事務局には、原子力部、立地環境部、電力技術部など10部ある。

 

事務局と会議の組織

Photo Photo_2

電事連のホームページから

原子力部が担当する「原子力開発対策委員会総合部会」には、各電力会社の常務クラスが月1回集まり、原発の技術や施設、燃料の問題について話し合っている。19987月に第298回が開かれているので、単純計算すると1970年代初めから続いているようだ。

 国会事故調が明らかにした総合部会議事録によると、1997年ごろから津波の問題がしばしば取り上げられている。電事連が津波対策を骨抜きにしてきた経緯を読み取ることができる。

 

●他省庁の動きに危機感

 

 電力業界は、通産省以外の省庁によって津波の予測方法が更新される動きを警戒していた。古い原発が用いている方法より、更新された予測方法による津波予測が大きくなれば、すぐに上回るからだ。それによって対策が強いられることを恐れていたのだろう。電事連の総合部会議事録(19976月)は、警戒心を露にしている。

 この報告書(7省庁手引き)では原子力の安全審査における津波以上の想定し得る最大規模の地震津波も加えることになっており、さらに津波の数値解析は不確定な部分が多いと指摘しており、これらの考えを原子力に適用すると多くの原子力発電所で津波高さが敷地高さ更には屋外ポンプ高さを超えるとの報告があった。[]

 「7省庁手引き」とは、1997年にまとめられた「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書」「地域防災計画における津波対策の手引き」(農林水産省、運輸省、建設省など策定)を指す[]1993年の北海道南西沖地震津波で奥尻島で津波による大きな被害があったことをきっかけに中央省庁で津波対策を再検討してまとめたものだ。

 19976月の電事連総合部会会議録には、電事連内部の作業チームが作成したと見られる詳細な報告書「7省庁による太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査について」が添付されており、ここでは原発が津波想定でかかえていた具体的な問題点が明らかにされている。報告書を読み解いてみる。

 

 2.問題点

 (1)想定しうる最大規模の地震津波も検討対象

〇現在、原子力の安全審査における津波は、①既往最大津波、②活断層により発生することが想定される地震津波を検討対象にしているが、この指針ではさらに③想定し得る最大規模の地震津波も加えている。

〇報告書では③の具体例として、プレート境界において地震地体構造上考えられる最大規模の地震津波も加えている。

〇この考えを原子力発電所に適用すると、一部原子力発電所において、津波高さが敷地高さを超えることになる。

             

 この記述からわかる重要な点は、このころまでに作られた原発のほとんどは、「想定し得る最大規模の地震津波」を考えずに設計されていたということだ。前述のように福島第一の場合も、60キロ離れた小浜港で1960年に観察されたチリ津波の記録を、最大の想定として設計している。津波を想定する科学・技術が進んで、「想定し得る最大規模の地震津波」を計算することが可能になってきて、それへ対処する必要があることにこの時点で気づいていたのだ福島第一の場合は、③の具体例として挙げられている「プレート境界において地震地体構造上考えられる最大規模の地震津波」が、2002年に地震本部が警告した高さ15.7mの津波だった。



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[東京電力福島原子力発電所事故調査委員会]

国会事故調 参考資料 P.43

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[農林水産省構造改善局、農林水産省水産庁、運輸省港湾局、建設省河川局, 1997]

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