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2013年8月11日 (日)

「東電不起訴」の非科学

「東電不起訴」の非科学
検察が東電原発事故で東電幹部らの不起訴の方針を固めたと朝日新聞8月8日朝刊が報じている。検察の言い分は「大規模な津波は、発生以前に専門家の間で予測されていたとは言えない」。不起訴は妥当なのか、検察の言い分を3つの視点から検証する。
(1)検察は「東電は2008年、福島第一での津波の高さを最大で15.7mと試算している。しかし捜査の結果、試算の根拠となった研究も、当時は専門家の間で賛否が分かれていたという」。記事が書いていない重要な点がある。確かに賛否は分かれていたけど「津波は発生する」と考えていた専門家の方が多かったということだ。
 地震調査研究推進本部は2002年に、福島沖を含む日本海溝で大きな津波地震が発生する可能性が30年以内に20%と予測していた。この予測結果を数値計算したものが15.7mだ。地震本部公式発表だからこれだけでも十分重いのだが、確かにすべての地震学者が賛同していたわけではない。原発の津波基準を作る土木学会津波評価部会が、「地震本部が予測するような大きな津波地震が起きる可能性はあるか」2004年と2008年に、津波や地震の専門家にアンケートしている。その結果、「津波地震は(福島沖を含む)どこでも起きる」とする専門家の方が、「福島沖はおきない」とする人より多かった。
 というわけで、15.7m予測は、検察の言うように「真っ黒」な予見結果ではなかったが、かなり濃いグレーではあった。検察は、長期予測がどこまで確実になったら「予見できていた」というのだろう。基準はあるのか。それは検察だけが密室で決めていいのだろうか。
(地震で100パーセント確実な予測なんてあろうはずがないけど)
(2)「予見の程度に見合う対策」を取っていたか。確かに津波地震の予測は100%確実ではなかった。起きないと思っている専門家はいた。でもかなり濃い灰色の予測は2002年に出されていた。その濃さに応じた対策はとっていたのか。真っ黒黒の予見であれば、当然防潮堤を作り、高い津波が来ても100%大丈夫なように備える義務がある。予見の精度が灰色でも、その程度に見合う対策は可能だったはずだ。結論から言えば、東電は、津波対策は運転開始以来40年近く、ほとんど進化させていなかった(20センチ分かさ上げしただけ)。これは責任が問われてしかるべきだろう。科学の進展でどんどん灰色度は増していたのだから。プレートテクトニクスも成立していない時代の備えから、ほとんど強化していないなんて論外だ。
 数百億円かかる防潮堤を作らなくても、費用対効果のすぐれた対策はあった。可搬型のバッテリー(数百万円だ)を備えておくだけで、直流電源は維持できた。それだけで事故拡大はずいぶん防げた。東電は地震発生後、必死で車のバッテリーをかき集めたが、それを事前に用意しておくのだ。非常用電源、電源盤を津波予測水位の上に設置しておけば(数億円)、福島第二や女川と同じように冷温停止にこぎつけることができた。
(3)そもそも安全余裕を切り下げていた責任はないのか。柏崎刈羽原発は予測していたより3倍以上の揺れに襲われたが炉心損傷までは至らなかった。揺れ予測の不確実性を見込んで、プラントは余裕を持って作られていたからだ。
 一方、津波の方はこの「安全余裕」がまったくなかった。津波高さが予測を数センチ超えただけで、冷却のために重要なポンプが機能しなくなることが2000年には判明していた。専門家は津波予測に2倍程度の誤差はあるとしていた。ところが余裕を設けると運転できなくなる既存原発があったため、電事連が安全余裕を設定することを渋り、土木学会を利用して基準から安全余裕を取り除いてしまった。
 1997年から2002年にかけて電事連内部で進められた「津波の安全余裕切捨て」は、プラントの安全設計上大きな意味を持つ。当然、今回の事故でも主役級の責任がある。ところが検察は電事連から資料を押収したという話はない。十分な捜査がなされたのだろうか。

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コメント

添田孝史様

はじめまして。岩見と申します。

小生は一介の市民ですが、福島原発事故について歴史的な面から調べております。大したものではありませんが、御笑覧頂ければと思います。

例えば、1号機は原案の提示から竣工までの間にレイアウトが数回変更されており、D/Gも
その過程で1階から地下に移設されましたが、東電事故調では不十分にしか触れていません。
http://iwamin12.cocolog-nifty.com/blog/2013/08/3-4b3c.html

※図面全てはココログのサイズ制限でアップしていません。メール頂ければ、対応します(その他の資料についても小生なりに掘り出しました)。

今後、D/Gの開発史や建設後の津波対策なども小生の視点で取上げていく所存です。

よろしくお願いします。

非常に貴重な情報ありがとうございます。

私は、いま事故前の10年間に焦点をあてて津波対策を調べています。だんだん遡って建設当時までたどりつければ、ぜひともいろいろご教示ください。現在の私の理解力では、岩見さんのブログの豊富な情報量がまだ理解しきれません。

今後とも、よろしくお願いします。

ありがとうございます。

まだ、ブログにはしていませんが、主要事故調が無視している津波調査があります。添田様の問題にしている近年の資料のひとつです。
他社様になりますが『福島と原発 誘致から大震災への五十年』では断片的に触れているものです。しかし技術的な核心に対するアプローチは同書でも不十分です。その核心も添田様のテーマに沿った内容です。

小生は物書きのプロではなく、要領も悪いので、ブログ記事をきちんと書こうとするとどうしても手間がかかってしまいます。ですが、小生も世に知ってもらいたい話と言うのはあります。特に、今回のような未曾有の事故の場合には。
元は行政資料ですので、メール頂ければPDFは御渡し出来ます。
なおこの調査、公開されているのにどの事故調の担当者も調べに来なかったらしいです。

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